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はじめに — 賃貸は「坪単価×延床」だけでは決まらない
賃貸共同住宅の建設費は、専有面積の合計ではなく延床面積で決まります。当たり前のようですが、ここが計画の分かれ目です。
同じ10戸のアパートでも、外廊下・外階段でまとめれば共用部は小さく済み、内廊下にすれば共用部が増えて延床が伸びます。賃料を生まない面積が増えるほど、投資効率は落ちます。
この記事では、坪単価と戸数別の総額を示したうえで、賃貸事業として見たときにどこで差がつくかを整理します。利回りの計算そのものは 木造アパート経営で失敗しないために、土地活用の選択肢の比較は 土地活用は木造非住宅が有利? を参照してください。
構造別の坪単価
本体工事費ベース(内装・設備・外構・設計監理費は別途)の目安です。
| 構造 | 坪単価の目安 |
|---|---|
| 木造(2×4) | 70〜95万円/坪 |
| S造(鉄骨造) | 85〜115万円/坪 |
| RC造 | 105〜140万円/坪 |
10用途の一覧は 非住宅建築の坪単価一覧 にまとめています。木造はS造比で約15〜20%、RC造比で約30〜35%の圧縮が目安です。
共同住宅の坪単価が倉庫や工場より高いのは、1戸ごとに水回りが入るためです。キッチン・浴室・洗面・便所の設備と配管が戸数分だけ必要になり、専有面積が小さいほど坪単価は上がります。ワンルーム主体の物件はファミリー向けより坪単価が高くなる、というのはこの理由です。
戸数別の総額目安(木造・本体工事費)
延床は「専有面積の合計 ÷ 0.8〜0.85」(共用部を15〜20%とした場合)で概算しています。
| 戸数・タイプ | 専有面積の想定 | 延床の目安 | 本体工事費の目安 |
|---|---|---|---|
| 6戸(1K 25㎡) | 150㎡ | 約55坪 | 約4,000万〜5,200万円 |
| 10戸(1K 25㎡) | 250㎡ | 約90坪 | 約6,300万〜8,500万円 |
| 16戸(1K 25㎡) | 400㎡ | 約145坪 | 約1億〜1億3,800万円 |
| 10戸(1LDK 40㎡) | 400㎡ | 約145坪 | 約9,700万〜1億3,000万円 |
| 24戸(1K 25㎡・3階建て) | 600㎡ | 約220坪 | 約1億5,000万〜2億円 |
総事業費は本体工事費の1.2〜1.4倍が目安です。外構、駐車場、地盤改良、設計監理費、確認申請等の手数料、そして消費税が乗ります。
3階建てにする場合は準耐火の要求が上がり、階段・廊下の面積も増えます。実例は 施工事例|木造3階建共同住宅(2×4工法・準耐火60分)、長屋形式の専有面積率を上げた例は 施工事例|3階建長屋住宅 を参照してください。
投資効率を決めるのは「専有面積率」
賃貸事業では、延床のうち何%が賃料を生む専有部かという専有面積率が収益を左右します。
| 形式 | 専有面積率の傾向 | 特徴 |
|---|---|---|
| 外廊下・外階段(一般的なアパート) | 高い(80〜85%程度) | 共用部が小さく効率が良い。建設費も抑えやすい |
| 内廊下 | 低い(70〜78%程度) | 高級感は出るが、面積と空調のコストが増える |
| 長屋形式(各戸が直接地上に接する) | 最も高い | 共用廊下・階段が不要。法規上の扱いが共同住宅と異なる |
同じ土地・同じ建設費でも、形式の選び方で賃料収入が1割以上変わることがあります。設計に入る前に、どの形式で計画するかを決めてください。
賃貸特有の設計要求
界壁の遮音と防火
共同住宅で最もクレームになるのが隣戸間の音です。界壁は遮音性能と防火性能の両方を満たす必要があり、法規上も小屋裏・天井裏まで到達させる要求があります。
木造2×4では、界壁を石膏ボードの重ね張りとグラスウール充填で構成します。耐火被覆と遮音対策を同じ壁で兼ねられるため、追加コストは抑えられます。上下階の音は乾式二重床や制振材で対応します。詳細は 木造の防音・遮音性能は大丈夫? にまとめています。
3階建て以上の耐火要求
木造3階建ての共同住宅は実例が多くありますが、準耐火の要求水準が上がります(準耐火構造とは?2×4のメンブレン型耐火のしくみ)。4階建てになるとさらに要求が上がり、コスト優位が薄れます(木造4階建ては建てられる?)。
減価償却
木造は法定耐用年数が短く、年間の減価償却費が大きくなるため、賃貸事業の初期の税負担を抑える方向に働きます。ただし耐用年数は税務上の区分であり、建物の寿命とは別物です(非住宅木造の減価償却と節税)。
注意:住宅の家賃には消費税がかからない
賃貸住宅を計画するうえで、知らないと損得を読み違える論点があります。
住宅の貸付けは消費税が非課税です。一方、建物の建設費には消費税がかかります。この差から「建設時の消費税は還付されるのか」という疑問が出ますが、令和2年度の税制改正で、居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上)の取得等に係る消費税は、原則として仕入税額控除の対象外とされました。かつて行われていた還付スキームを封じる趣旨の改正です。
つまり、建設費にかかる消費税は原則としてコストとして負担するという前提で事業計画を立てる必要があります。取得後おおむね3年以内に課税賃貸用に転用した場合や譲渡した場合には調整の規定がありますが、通常の賃貸経営では該当しません。
同じ論点は高齢者向け施設でも生じます(介護施設の建設と消費税)。具体的な取り扱いは必ず税理士にご確認ください。
建設費を上げずに家賃を上げられる部分・上げられない部分
賃貸事業では、同じ建設費なら家賃に効く部分に配分するのが原則です。どこにお金をかけるかで、投資効率は大きく変わります。
| 項目 | 家賃・入居率への効き方 |
|---|---|
| 遮音性能 | 効く。退去理由の上位。ここをケチると空室率で回収できない |
| 収納量 | 効く。同じ専有面積でも体感が変わる。造作で解決でき、費用対効果が高い |
| 独立洗面・浴室乾燥・宅配ボックス | 効く。相場より上を狙うなら必須になりつつある |
| インターネット無料 | 効く。設備投資は小さく、募集条件として強い |
| 外観の高級感 | 限定的。写真映えはするが家賃には反映されにくい |
| 共用部の広さ・豪華さ | 逆効果になり得る。専有面積率が下がり、賃料を生まない面積が増える |
| 過度な断熱グレード | 家賃には反映されにくい(光熱費を払うのは入居者のため) |
「外観と共用部にお金をかけ、遮音と収納を削る」というのが最も避けたい配分です。入居者が退去を決めるのは音と使い勝手であり、外観ではありません。
木造2×4は界壁の遮音対策を耐火被覆と兼ねられるため、遮音にコストを回しやすい構造です。この点は賃貸事業と相性がよい部分です。
よくある質問(FAQ)
Q. 木造だと入居者に敬遠されませんか。 A. 実際に敬遠されるのは「音」であって構造そのものではありません。界壁と床の仕様で対策できます。むしろ木質空間は居住満足度を上げる方向に働き、断熱性能の高さは光熱費として入居者の利益になります。
Q. 何戸から事業として成立しますか。 A. 土地代・賃料相場によるため一概には言えませんが、戸数が少ないほど1戸あたりの固定費(申請・設計・引込・外構)の負担が重くなります。6戸を下回ると効率が落ちやすいというのが一般的な感覚です。
Q. 1階を店舗や事務所にできますか。 A. 可能です。ただし住宅部分と用途が異なるため、区画・避難・設備の計画が変わります。また、店舗部分の賃料には消費税がかかるため、税務上の扱いも住宅部分と分けて考える必要があります。
Q. 駐車場は何台必要ですか。 A. 地域によって大きく異なり、自治体の条例で附置義務がある場合もあります。地方では1戸1台以上、都市部では設置しない計画もあります。土地の面積計画に直結するため、最初に確認してください。
Q. サ高住や高齢者向け住宅とは何が違いますか。 A. サービス付き高齢者向け住宅は居室面積(原則25㎡/戸以上)やバリアフリーの基準があり、登録制度の対象です。建設費の水準も変わります(木造サ高住の建設費と坪単価)。
まとめ
賃貸共同住宅の建設費は、木造で70〜95万円/坪が基準です。ワンルーム主体で戸数が多いほど、水回りの数が増えて坪単価は上振れします。
事業として見たときに効くのは、坪単価そのものより次の3点です。
- 専有面積率(外廊下か内廊下か、長屋形式か)
- 界壁の遮音(クレームと空室率に直結する)
- 建設費の消費税は原則として控除できない(事業計画に織り込む)
土地の条件と目標戸数が決まっているなら、建設費シミュレーターで概算を出したうえで、無料相談で形式と収支の当たりを取るのが確実です。
※ 税務の取り扱いは個別事情で異なります。消費税・減価償却の判断は必ず税理士にご確認ください。
