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はじめに — 結論から言うと、期待しないほうがよい
介護施設や高齢者向け住宅の建設を検討していると、「建設費にかかった消費税が還付される」という話を耳にすることがあります。数億円規模の建物であれば、消費税だけで数千万円になるため、還付の有無は事業計画を左右します。
しかし結論を先に述べます。介護施設・高齢者向け住宅の建設では、消費税の還付を受けられないケースがほとんどです。還付を前提に資金計画を組むと、大きく狂います。
この記事では、なぜそうなるのかを制度の構造から説明します。税務の最終判断は必ず税理士に確認してください。本記事は事業計画を立てる際の前提を整理するためのものです。
前提:消費税の還付が起きるしくみ
消費税は、預かった消費税(課税売上に係るもの)から支払った消費税(課税仕入れに係るもの)を差し引いて納付します。差し引きがマイナスになれば還付されます。
建物を建てた年度は、建設費という巨額の課税仕入れが発生します。課税売上が十分にあれば還付が生じ得るというのが、還付の基本構造です。
したがって、還付を受けられるかどうかは「その建物で行う事業の売上が、消費税の課税対象かどうか」にかかっています。
障壁1:介護保険サービスは非課税
ここが最大の論点です。
介護保険法にもとづく施設サービス(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設等)や、居宅サービスの多くは、消費税が非課税とされています。社会政策的な配慮による非課税取引です。
非課税売上に対応する課税仕入れは、原則として仕入税額控除の対象になりません。売上に消費税がかかっていないのだから、それに対応する仕入れの消費税も差し引けないという考え方です。
なお、利用者の選定による特別な居室や特別な食事など、一部は課税取引になります。ただしこれらは売上全体に占める割合が小さく、課税売上割合が低い状態は変わりません。
障壁2:住宅の貸付けも非課税
「介護サービスではなく、建物を賃貸するかたちにすればよいのでは」という発想が次に出てきます。実際、建物のオーナーと運営事業者を分ける形態は一般的です。
しかし、住宅の貸付けも消費税は非課税です。
この点について、国税庁(東京国税局)は認知症高齢者グループホーム用建物の賃貸に関する文書回答事例を公表しており、こうした建物の賃貸に係る賃料収入は住宅の貸付けとして非課税とされ、その取得費用に係る消費税の取扱いもそれに従うという整理が示されています。
介護付有料老人ホームについても、入居者が日常生活を送るために必要な場所は住宅に含まれるという判断がなされています。「事業用の建物を貸しているのだから課税だろう」という直感は通用しません。
障壁3:令和2年度改正で還付スキームが封じられた
かつては、課税売上割合を人為的に操作して還付を受ける手法が行われていました。これに対し、令和2年度の税制改正で制限が設けられました。
令和2年10月1日以後に取得した居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上)については、その取得等に係る消費税は仕入税額控除の対象外とされています(消費税法30条10項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、税抜1,000万円以上のもの |
| 効果 | 取得時に仕入税額控除ができない |
| 調整規定 | 取得からおおむね3年以内に課税賃貸用に供した場合や譲渡した場合は、一定の調整により控除できる |
サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームは、この「居住用賃貸建物」に該当する可能性が高い類型です。改正の趣旨自体が、こうした還付スキームを封じることにありました。
では、還付の余地はどこにあるのか
まったく可能性がないわけではありません。ただし、いずれも建物の一部にとどまります。
| 課税売上になり得るもの | 備考 |
|---|---|
| 併設のデイサービス以外の課税サービス | 内容による |
| 併設の店舗・テナント部分 | 事業用の賃貸は課税 |
| 自動販売機、コインランドリー等の収入 | 金額が小さい |
| 利用者の選定による特別な居室・食事 | 全体に占める割合は小さい |
これらがある場合でも、課税売上割合に応じた按分になるため、建設費の消費税の大半は控除できません。
事業計画上の正しい前提はこうです。
- 建設費にかかる消費税は、原則としてコストとして負担する
- 総事業費には消費税を含めて計上する
- 還付があれば「想定外の好材料」として扱い、前提には置かない
同じ構造は賃貸住宅でも生じます(賃貸アパート・共同住宅の建設費)。
資金計画への織り込み方
数字で見ると影響の大きさが分かります。延床200坪・坪単価85万円の木造グループホームを想定します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 本体工事費(税抜) | 1億7,000万円 |
| 消費税(10%) | 1,700万円 |
| 付帯・外構・設計監理費等(税抜、本体の25%と仮定) | 4,250万円 |
| 同 消費税 | 425万円 |
| 総額(税込) | 約2億3,375万円 |
この2,125万円の消費税は、原則として戻ってこない前提で資金を用意する必要があります。還付を見込んで自己資金を薄く設定すると、開設時に運転資金が不足します。
介護事業は開設後、報酬が入金されるまでにタイムラグがあります。運転資金を厚めに確保しておくことが、開設初期の安定に直結します。
消費税より確実に効く3つの手段
還付に期待するより、次のほうが確実です。
| 手段 | 内容 |
|---|---|
| 建設費そのものを下げる | 木造化によるRC造比30〜40%の圧縮。消費税額も比例して下がる |
| 補助金を使う | 木造化に対する国の補助制度がある(非住宅木造に使える補助金・助成金まとめ) |
| 減価償却を効かせる | 木造は法定耐用年数が短く、早期に費用化できる(非住宅木造の減価償却と節税) |
建設費を下げれば、そこにかかる消費税も自動的に下がります。還付の可否を追いかけるより、本体価格を下げるほうが確実で金額も大きいというのが実務的な結論です。
用途別の建設費は 木造グループホーム・木造デイサービス・木造サ高住・木造 小規模多機能 を、設計の進め方は 福祉施設を木造で設計する実務ガイド を参照してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 「消費税還付できます」という提案を受けているのですが。 A. どの売上を課税売上として見込んでいるのかを具体的に確認してください。そのうえで、顧問税理士に第三者としての意見を求めることを強くおすすめします。令和2年度改正以降、居住用賃貸建物の取得に係る控除は制限されています。
Q. 建物を課税事業者である別法人に貸せば還付されますか。 A. 転貸であっても、最終的に住宅として貸し付けられるのであれば住宅の貸付けとして扱われる余地があり、また居住用賃貸建物の控除制限の対象になり得ます。形式を変えるだけで結論が変わるとは考えないでください。
Q. デイサービス単独ならどうですか。 A. 通所介護も介護保険サービスとして非課税取引が中心です。居住部分がない分、居住用賃貸建物の論点は生じにくくなりますが、課税売上が乏しい点は変わりません。
Q. 開設後に用途を変えたら調整できますか。 A. 居住用賃貸建物については、取得からおおむね3年以内に課税賃貸用に供した場合や譲渡した場合の調整規定があります。ただし通常の介護事業運営では該当しません。
Q. 簡易課税を選択している場合は。 A. 簡易課税制度では、実際の課税仕入れにかかわらずみなし仕入率で計算するため、建設費に係る還付は生じません。建設を予定している場合、届出の要否とタイミングを事前に税理士と検討してください。
まとめ
- 介護保険サービスは非課税売上であり、対応する課税仕入れは原則として控除できない
- 住宅の貸付けも非課税。建物を賃貸する形態にしても結論は変わりにくい
- 令和2年度改正で、居住用賃貸建物(税抜1,000万円以上)の取得に係る仕入税額控除は制限された
- したがって、還付を前提に資金計画を組んではいけない
- 確実なのは、建設費そのものを下げる・補助金を使う・減価償却を効かせるの3つ
建設費の概算は 建設費シミュレーターで出せます。用途と定員が決まっているなら、無料相談で規模と総事業費の当たりを取ってください。
※ 本記事は制度の一般的な説明であり、個別の税務判断ではありません。消費税の取扱いは事業形態・契約形態・時期によって結論が変わるため、必ず顧問税理士にご確認ください。
