※ 画像はイメージです
木造建築のCO2削減効果は、①森林が吸収した炭素を木材として建物に貯蔵すること、②鉄やコンクリートに比べて資材製造時のCO2排出を抑えやすいこと、の2つです。 建物に貯蔵された炭素の量は、林野庁の「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」(令和3年10月1日)の計算式で求められ、スギの製材なら木材1㎥あたり約0.61トン(CO2換算)になります。ガイドラインの表示例では、延べ1,000㎡の木造ビルで木材400㎥・炭素貯蔵量273t-CO2です。
国の審議会の答申(令和8年1月)は、建築物のライフサイクル全体のCO2等排出量が日本全体の約4割を占めると推定しています。国は関係省庁連絡会議の基本構想(2025年4月)で、2028年度を目途に建築物のライフサイクルカーボン評価(LCA)の実施を促す制度を始めることを目指すとしています。施主に木造の環境価値を説明するときは、根拠のある計算方法と公的資料に沿って伝えることが大切です。
建築物とCO2|まず押さえる言葉と数字
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| ライフサイクルカーボン(LCCO2) | 建物の資材製造・施工から使用、解体までの全期間のCO2等排出量 |
| オペレーショナルカーボン | 使用段階の冷暖房・照明など、エネルギー消費に伴う排出 |
| エンボディドカーボン | 資材製造・運搬・施工・改修・解体に伴う排出 |
| 炭素貯蔵量 | 建物に使った木材が蓄えている炭素の量(CO2換算) |
社会資本整備審議会の第四次答申(令和8年1月29日)は、次のように整理しています。
- 建築物のライフサイクルカーボンは、日本のCO2等排出量の約4割を占めると推定(事務局の試算で42%)
- そのうち約4分の1(日本全体の約1割)がエンボディドカーボン
- オペレーショナルカーボンは建築物省エネ法で削減が進められ、2025年4月から全ての新築建築物で省エネ基準への適合が義務化
木造は、このうちエンボディドカーボンの削減と炭素貯蔵の2点で効きます。使用段階の排出は、構造よりも断熱・設備の性能で決まります。
構造別のCO2排出量は「算定ツール」で比べる
木造・S造(鉄骨造)・RC造(鉄筋コンクリート造)のCO2排出量は、建物の規模・仕様・使う資材で大きく変わるため、一律の数字では比べられません。比べるときは、同じ建物の計画を構造別に算定ツールで計算します。
- J-CAT(建築物のライフサイクルカーボン算定ツール):一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が、資材の製造・運搬・施工・改修・解体までのライフサイクル全体を算定できるツールとして正式版を公開しています(国土交通省 報道発表、令和6年10月31日)
- 林野庁「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」(2024年3月、2024年12月一部改訂):エンボディドカーボンの削減、炭素の貯蔵、持続可能な木材の調達などを評価・開示する考え方を示しています
構造による建築費の違いは 木造・鉄骨造・RC造の坪単価比較 で用途別に整理しています。
木材の炭素貯蔵量の計算方法(林野庁ガイドライン)
林野庁のガイドラインでは、建物に使った木材の炭素貯蔵量(CO2換算)を次の式で計算します。
炭素貯蔵量(t-CO2)= 木材の量(㎥)× 密度(t/㎥)× 炭素含有率 × 44/12
- 木材の量:完成した建物本体に使われている木材の量(気乾状態の材積)。仮設材や型枠など、完成までに撤去される木材は含めない
- 密度:樹種別の気乾密度(含水率15%程度の状態の密度)に0.87を掛けて換算する。樹種が不明なら、日本で最も多く使われるスギの値を使ってよい
- 炭素含有率:製材は0.5、合板は0.493(日本国温室効果ガスインベントリ報告書の値)
- 44/12:炭素の重さをCO2の重さに換算する係数
【早見表】木材1㎥あたりの炭素貯蔵量(CO2換算)
ガイドラインに示された気乾密度・炭素含有率の値から計算した目安です(小数第3位を四捨五入)。
| 材料 | 気乾密度(g/㎤) | 密度(t/㎥)=気乾密度×0.87 | 炭素含有率 | 1㎥あたりの炭素貯蔵量 |
|---|---|---|---|---|
| スギ(製材) | 0.38 | 0.331 | 0.5 | 約0.61t-CO2 |
| ヒノキ(製材) | 0.44 | 0.383 | 0.5 | 約0.70t-CO2 |
| カラマツ(製材) | 0.50 | 0.435 | 0.5 | 約0.80t-CO2 |
| スギの構造用合板(ガイドラインの表示例の値) | ― | 0.542 | 0.493 | 約0.98t-CO2 |
※ 集成材やCLT(直交集成板)は、ラミナ(原料の板)と同じ樹種の製材の密度で計算してよいとされています。
計算例1|ガイドラインの表示例(延べ1,000㎡の木造ビル)
| 部位 | 計算 | 炭素貯蔵量 |
|---|---|---|
| 構造材(スギ製材) | 240㎥ × 0.331 × 0.50 × 44/12 | 145.6t-CO2 |
| 下地材(スギ製材) | 80㎥ × 0.331 × 0.50 × 44/12 | 48.5t-CO2 |
| 構造用合板(スギ) | 80㎥ × 0.542 × 0.493 × 44/12 | 78.4t-CO2 |
| 合計(木材400㎥) | 約273t-CO2 |
出典:林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」(参考4 表示例)
計算例2|自社案件で試算する
木材の量は、プレカット工場の材積表や積算から拾います。たとえば、ある建物にスギの製材を40㎥使う場合(仮定)は、40㎥ × 0.331 × 0.5 × 44/12 ≒ 約24t-CO2 です。樹種・材料ごとに分けて計算し、合計します。
【チェックリスト】炭素貯蔵量を表示するときの5項目
ガイドラインは、表示する内容と注意点を次のように示しています。
- 表示する内容を選んだか(建物の名称、延床面積、国産材の利用量と炭素貯蔵量、木材全体の利用量と炭素貯蔵量、ガイドラインに沿って算定した旨、算定根拠)
- 算定した年月日と担当(企業なら担当部署・連絡先)を書いたか
- 計算に使った数値・根拠資料を、表示している期間中は保存しているか
- 外構や地盤改良に使った木材は、建物とは別に計算・表示しているか
- 改築などで木材が増減したら、再計算して表示を更新するか
利用した木材がクリーンウッド法(合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律)に基づいて合法性を確認できたものであれば、その旨を表示に書き添えることもできます。
ESG経営と木造建築の関係
ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字で、企業の持続可能性を評価する視点です。木造建築は、特に「E(環境)」の説明材料になります。
木造建築がESGの情報開示に使えるポイント
- 炭素貯蔵量:林野庁ガイドラインに沿って算定した値を、CSR報告書やウェブサイトで示せる
- エンボディドカーボン:J-CATなどの算定ツールで、計画段階の排出量を把握・比較できる
- 持続可能な調達:合法性が確認できた木材、森林認証材、国産材・地域材の利用を説明できる
- 地域への貢献:地域材の活用は、林業・木材産業を通じた地域経済への貢献として「S(社会)」の説明にもつながる
国の動きとしては、2021年10月に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(都市(まち)の木造化推進法)が施行され、国・自治体と事業者が建築物での木材利用について協定(建築物木材利用促進協定)を結べる仕組みができました。また、関係省庁連絡会議の基本構想(2025年4月)で2028年度を目途とした建築物LCAの制度開始が掲げられ、先の答申もその具体的な仕組みを示しています(対象建築物などの詳細は、今後の国土交通省の公表で確認してください)。
提案資料への活用方法|施主にCO2削減効果をどう伝えるか
ポイント1: 計算方法を示して数字を出す
「木造はCO2が少ない」と言うだけでなく、「林野庁ガイドラインの計算式で、この建物の炭素貯蔵量は○t-CO2」と、計算方法と材積の根拠を添えて示します。根拠が示せると、施主が自社の報告書に載せやすくなります。
ポイント2: 比較は同じ条件で算定する
RC造・S造との比較を示すなら、同じ計画を算定ツールで構造別に計算した結果を使います。出所のわからない一般論の数字は使わないことが、信頼につながります。
ポイント3: 施主のビジネスメリットと結びつける
- 炭素貯蔵量をCSR報告書・統合報告書やウェブサイトで開示できる
- 取引先や顧客に、脱炭素の取り組みとして説明できる
- 省エネ性能を高めればZEB化や補助制度の対象になり得る
- 2028年度を目途とした国のライフサイクルカーボン評価制度に、早めに備えられる
ZEB補助金など環境性能を絡めた補助制度は非住宅木造に使える補助金・助成金まとめに、脱炭素・木材利用促進をめぐる政策の全体像は2026-2027 非住宅木造 政策・市場動向まとめにまとめています。
まとめ
- 木造のCO2削減効果は炭素貯蔵とエンボディドカーボンの削減の2つ
- 炭素貯蔵量は林野庁ガイドラインの式(木材の量×密度×炭素含有率×44/12)で計算でき、スギの製材なら1㎥あたり約0.61t-CO2
- 構造別の排出量の比較は、一律の数字ではなくJ-CATなどの算定ツールで同じ条件で計算する
- 国は2028年度を目途に建築物のライフサイクルカーボン評価の制度開始を目指している
- 提案時は「計算方法の明示」「同条件での比較」「ビジネスメリット」の3つで伝える
木造の環境価値を根拠のある数字で語れる工務店は、ESGを重視する施主からの信頼を得やすくなります。
この記事と合わせて読みたい関連記事
- 木造・鉄骨造・RC造の坪単価比較
- 地域材・国産材で非住宅木造を建てる|林業連携
- 2026-2027 非住宅木造 政策・市場動向まとめ
- 非住宅木造に使える補助金・助成金まとめ【2026年度最新版】
- ZEB(ゼロエネルギービル)を木造で実現する方法
- 木造非住宅とは?市場・法規・コスト・課題を工務店向けに整理
出典・参考
- 林野庁「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」(令和3年10月1日 3林政産第85号 林野庁長官通知): https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/mieruka.html
- 林野庁「建築物への木材利用に係る評価ガイダンス」(2024年3月、2024年12月一部改訂): https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/attach/pdf/esg_architecture-15.pdf
- 内閣官房「建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた取組の推進に係る基本構想」(2025年4月)の内容は、上記答申の記載によります
- 社会資本整備審議会「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第四次答申)」(令和8年1月29日): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001978670.pdf
- 国土交通省 報道発表「建築物のライフサイクルカーボン算定ツール正式版を公開しました」(令和6年10月31日): https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001248.html
- 脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/422AC0000000036
- 林野庁「クリーンウッド法の制度」: https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/goho/summary/summary.html

