木造アパート経営で失敗しないために — 利回り計算の落とし穴
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はじめに — 「利回り10%」に騙されてはいけない
「新築木造アパート、表面利回り10%」。不動産投資の広告でよく目にするフレーズです。しかし、この「利回り10%」をそのまま信じてアパート経営を始め、数年後に資金繰りに行き詰まるオーナーが後を絶ちません。
国土交通省の統計によると、新築アパートの約15%が竣工から5年以内にオーナーチェンジ(売却)されています。その主な原因は「想定していた収益が得られない」という利回り計算のミスです。
木造アパートは、RC造やS造と比較して建設コストが低く、投資効率に優れた選択肢です。しかし、正しい利回り計算ができなければ、その優位性を活かせません。本記事では、木造アパート経営で失敗しないための利回り計算の正しい考え方を解説します。
表面利回りと実質利回りの違い
まず、利回りには大きく2種類あることを理解しましょう。
表面利回り(グロス利回り)
表面利回りは、最もシンプルな計算方法です。
表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件取得価格 × 100
例えば、建設費8,000万円の木造アパートで、年間家賃収入が720万円(月60万円)の場合、表面利回りは9.0%になります。
実質利回り(ネット利回り)
実質利回りは、実際の経費を差し引いた手残りベースの利回りです。
実質利回り =(年間家賃収入 − 年間経費)÷(物件取得価格 + 購入時諸費用)× 100
同じ物件でも、年間経費が180万円、購入時諸費用が400万円かかる場合、実質利回りは6.43%まで下がります。表面利回り9.0%と実質利回り6.43%の差は、実に2.57ポイントです。
この差を理解せずに事業計画を立てると、ローン返済後の手残りがほとんどゼロになるケースも珍しくありません。
見落としがちなコスト5つ
表面利回りと実質利回りの差を生む「見落としがちなコスト」を具体的に見ていきましょう。
1. 管理費
物件管理を管理会社に委託する場合、家賃収入の5〜8%が管理手数料として発生します。月額家賃60万円なら、年間36万〜58万円の支出です。自主管理で削減できますが、入居者対応やクレーム処理の手間を考えると、特に本業が工務店の場合は委託がおすすめです。
2. 修繕積立金
木造アパートは築10年を超えると、外壁塗装、屋上防水、給排水管の更新などの大規模修繕が必要になります。一般的な修繕費の目安は以下の通りです。
| 修繕項目 | 発生時期 | 費用目安(8戸の場合) |
|---|---|---|
| 外壁塗装 | 10〜15年目 | 200〜300万円 |
| 屋上防水 | 10〜15年目 | 100〜150万円 |
| 給排水管更新 | 15〜20年目 | 150〜250万円 |
| 内装リフォーム | 退去時 | 1戸あたり30〜50万円 |
これらに備えるため、家賃収入の5〜10%を修繕積立金として毎月積み立てる必要があります。
3. 空室損
満室を前提とした利回り計算は危険です。全国平均の空室率は約18%(総務省「住宅・土地統計調査」)ですが、新築の場合でも5〜10%の空室損は見込んでおくべきです。月額家賃60万円のアパートで空室率10%なら、年間72万円の減収になります。
4. 固定資産税・都市計画税
意外と見落とされがちなのが固定資産税です。木造アパートの場合、建物の固定資産税評価額は建設費の50〜60%程度が目安です。8,000万円の建物なら評価額は約4,000〜4,800万円、税率1.4%で年間56万〜67万円。都市計画税(0.3%)を加えると、年間68万〜82万円の税負担になります。
ただし、木造はRC造と比較して固定資産税が低くなるメリットがあります。RC造の評価額は建設費の60〜70%が目安であり、同規模の建物でも木造の方が年間10万〜20万円程度税負担が軽くなります。
5. 火災保険・地震保険
木造アパートの火災保険料は、RC造と比較して割高になる傾向があります。8戸・延床面積80坪程度の木造アパートの場合、火災保険(10年一括)で80万〜120万円、地震保険(5年)で40万〜60万円が目安です。年間換算すると16万〜30万円の負担になります。
木造アパートの収益シミュレーション
ここで、具体的なモデルケースで収益をシミュレーションしてみましょう。
前提条件
- 建設費: 8,000万円(木造2階建、8戸、各25平米)
- 諸費用: 400万円(登記費用、不動産取得税、仲介手数料等)
- 家賃: 月額7.5万円/戸 × 8戸 = 月額60万円
- 融資: 7,500万円(金利1.5%、30年返済)
年間収支
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 家賃収入(満室時) | 720万円 |
| 空室損(▲10%) | ▲72万円 |
| 管理費(5%) | ▲36万円 |
| 修繕積立(7%) | ▲50万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | ▲72万円 |
| 火災保険・地震保険 | ▲22万円 |
| 営業純利益(NOI) | 468万円 |
| ローン返済(年間) | ▲310万円 |
| 税引前キャッシュフロー | 158万円 |
表面利回りは9.0%ですが、実質利回り(NOIベース)は5.57%、税引前キャッシュフロー利回りは1.88%まで下がります。
RC造アパートとの利回り比較 — 木造の方が実質利回りが高くなる理由
「実質利回りが低いなら、RC造の方がいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、同規模のアパートをRC造で建てた場合と比較すると、木造の方が実質利回りで有利になるケースが多いのです。
| 比較項目 | 木造 | RC造 |
|---|---|---|
| 建設費(100坪) | 8,000万円 | 1億2,000万円 |
| 家賃(月額) | 60万円 | 65万円 |
| 表面利回り | 9.0% | 6.5% |
| 年間経費合計 | 252万円 | 310万円 |
| 実質利回り | 5.57% | 4.35% |
RC造は家賃を若干高く設定できますが、建設費の差を埋めるほどではありません。特に地方都市では、木造とRC造の家賃差がほとんどないケースも多く、木造の利回り優位性はさらに顕著になります。
また、木造は法定耐用年数が22年と短いため、減価償却による節税効果が大きいという点も見逃せません。RC造の47年と比較して、毎年の償却費が約2倍になるため、所得税・法人税の節税効果は木造の方が大きくなります。
工務店が土地オーナーに説明する際のポイント
工務店として土地オーナーに木造アパートを提案する際は、以下の3点を意識しましょう。
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表面利回りだけで説明しない: 「表面利回り10%」ではなく、経費を差し引いた実質利回りで説明することで、信頼性が格段に上がります。逆に、実質利回りを隠して表面利回りだけで営業する会社との差別化にもなります。
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30年間のキャッシュフロー表を提示する: 単年度の収支だけでなく、大規模修繕、家賃下落、ローン完済後の収益変化まで含めた長期シミュレーションを作成しましょう。
-
RC造との比較は必ず入れる: 土地オーナーの多くは「アパートならRC造」という先入観を持っています。建設費の差額で別の投資ができること、実質利回りでは木造が有利であることを数字で示すことが重要です。
まとめ
木造アパート経営で失敗しないためには、表面利回りだけでなく実質利回りで判断することが不可欠です。管理費、修繕積立、空室損、固定資産税、保険料という5つの「見えないコスト」を正しく織り込むことで、現実的な収支計画が立てられます。
木造アパートの実質利回りは5〜7%が一般的ですが、それでもRC造の4〜5%と比較すれば十分に有利な数字です。建設コストの低さと減価償却の大きさが、木造の最大の強みです。
工務店としてオーナーに提案する際は、表面利回りの高さではなく、実質利回りの健全さと長期的なキャッシュフローの安定性を訴求することが、信頼獲得と受注につながる最善の方法です。
