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非住宅の省エネ基準は、外皮の断熱性能(UA値)ではなく、一次エネルギー消費量の基準(BEI)で適合を判定します。 BEI(Building Energy Index)は、空調・換気・照明・給湯・昇降機で使う設計上のエネルギー量を、標準的な仕様の基準値で割った値です。2025年4月から原則すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられ、延べ300㎡以上2,000㎡未満の中規模非住宅は、2026年4月1日以降に省エネ適判(省エネ基準への適合性判定)を申請するものから、用途別にBEI 0.75〜0.85が基準になりました。
非住宅の外皮(外壁・屋根・窓など)の性能はPAL*(パルスター)という指標で評価しますが、PAL*は義務基準の対象外で、誘導基準(性能向上計画認定)にだけ使われます。つまり非住宅で断熱を強くする目的は、空調のエネルギーを減らしてBEIを下げることです。木造は構造材そのものが熱を伝えにくいため、この点で有利です。
住宅と非住宅で、省エネ基準の何が違うのか
国土交通省の整理では、省エネ基準は「一次エネルギー消費量基準」と「外皮基準」からなり、外皮基準は住宅にだけ適用されます。
| 指標 | 何を表すか | 住宅 | 非住宅 |
|---|---|---|---|
| BEI(一次エネルギー消費量) | 設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量(その他一次エネルギー消費量を除く) | 適用 | 適用(適合の判定はこれ) |
| UA値・ηAC値(外皮平均熱貫流率・冷房期の平均日射熱取得率) | 外皮からの熱の逃げやすさ・日射の入りやすさ | 適用 | 適用なし |
| PAL*(ペリメータゾーンの年間熱負荷係数) | 外周部(ペリメータゾーン)の年間の冷暖房負荷 ÷ その床面積 | ― | 誘導基準のみ(義務基準の対象外) |
BEIの計算に入る一次エネルギー消費量は、空調・換気・照明・給湯・昇降機(昇降機は非住宅のみ)の合計から、太陽光発電などによる削減量(自家消費分)を差し引いたものです。OA機器などの「その他一次エネルギー消費量」は除きます。非住宅の計算は、標準入力法またはモデル建物法の計算プログラムで行い、PAL*も同時に算出できます。
「非住宅木造のUA値の基準は◯◯」という説明は誤りです。省エネ基準の全体像は 2025年 省エネ基準適合義務化と木造非住宅 でも整理しています。
【早見表】非住宅の規模・用途別のBEI基準(2026年10月時点)
| 規模(延べ面積) | 省エネ基準のBEI | 時期 |
|---|---|---|
| 300㎡未満(小規模) | 1.0 | 2025年4月から適合義務 |
| 300㎡以上2,000㎡未満(中規模) | 工場等 0.75/事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等 0.80/病院等・飲食店等・集会所等 0.85 | 2026年4月1日以降に省エネ適判を申請するもの |
| 2,000㎡以上(大規模) | 中規模と同じ用途別の水準(現行基準から15〜25%強化) | 2024年4月の省令改正から |
| 参考:遅くとも2030年度までに目指す水準 | 事務所等・学校等・工場等 0.60/病院等・ホテル等・百貨店等・飲食店等・集会所等 0.70 | エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)等 |
出典:国土交通省「中規模非住宅建築物 適合義務の省エネ基準が引上げられます!」、同「大規模な非住宅建築物の省エネ基準が変わります」。増改築は、増改築部分の面積の規模に応じた水準を使います。
国は、2030年度以降に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指すとし、省エネ基準を段階的に引き上げるとしています。これから計画する建物は、適判の申請時期にどの基準がかかるかを確認したうえで、一段上の水準を見込んで設計しておくと安全です。
誘導基準で使うPAL*の基準値(6地域の例)
PAL*は義務基準ではありませんが、外皮の良し悪しを用途ごとに比べる目安になります。建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令の別表(第十条関係)の値から、6地域の数値を抜き出しました(単位:MJ/㎡年)。
| 用途 | PAL*の基準値(6地域) |
|---|---|
| 事務所等 | 470 |
| ホテル等(客室部) | 500 |
| 病院等(病室部/非病室部) | 830/450 |
| 百貨店等 | 720 |
| 学校等 | 470 |
| 飲食店等 | 820 |
| 集会所等(図書館等) | 580 |
出典:国土交通省「省エネ基準の概要」(非住宅の省エネ基準・誘導基準の水準)。地域区分(1〜8地域)は市町村ごとに定められているため、敷地の区分を確認してから値を引いてください。
木造の断熱が有利な理由
構造材そのものが熱を伝えにくい
省エネ計算で使う建材の熱伝導率(熱の伝えやすさ。小さいほど伝えにくい)は、建築研究所の技術情報に次のように示されています。
| 材料 | 熱伝導率 W/(m・K) | 天然木材との比 |
|---|---|---|
| 天然木材 | 0.12 | 1 |
| 直交集成板(CLTパネル) | 0.12 | 1 |
| 合板 | 0.16 | 約1.3倍 |
| コンクリート | 1.6 | 約13倍 |
| 鋼 | 55 | 約460倍 |
出典:建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」第三章第三節 付録A 表1(Ver.24、2025年4月)。
鉄骨造では柱・梁が外壁を貫く部分が熱橋(ヒートブリッジ=熱の通り道)になりやすく、断熱材を厚くしても構造材を伝って熱が逃げます。木造は構造材自体の熱伝導率が低いため、熱橋の影響を抑えやすい構造です。ただし、接合金物や鉄骨の梁を併用する部分は熱橋になるので、納まりの確認は必要です。
2×4工法は壁の中に断熱材を充填しやすい
2×4工法(枠組壁工法)の壁は、規格寸法の枠材に構造用面材を張ったパネルです。枠材は、寸法型式204(厚さ38mm×幅89mm)や206(38mm×140mm)などの規格品を使います(平成13年国土交通省告示第1540号、枠組壁工法構造用製材の規格)。枠の間が断熱材を入れる空間になるため、206材を使えば壁の中に入れられる断熱材を厚くできます。在来軸組工法に比べて、筋かいとの取り合いが少なく、充填の施工を揃えやすい点も利点です。
部位ごとの断熱材の厚さや熱貫流率は、地域区分・用途・設備の組み合わせで最適解が変わります。仕様は、モデル建物法などの計算でBEIへの効き方を確かめてから決めてください。
断熱を強くすれば適合する、とは限らない
非住宅のBEIは、空調だけでなく照明・換気・給湯・昇降機の合計で決まります。事務所や店舗のように照明や空調の設備が大きい用途では、断熱よりも、照明のLED化・制御、高効率の空調、換気の制御のほうがBEIに効く場面が多くあります。外皮の強化と設備の選定は、計算で効き方を比べながら組み合わせます。
一次エネルギー消費量を基準から50%以上減らすとZEB Ready、再生可能エネルギーを含めて100%以上減らすと『ZEB』になります(資源エネルギー庁の定義)。ZEBの区分と木造での進め方は 木造でZEBは実現できる? で解説しています。
【チェックリスト】非住宅木造の断熱・省エネ設計で確認する8項目
- 建物の用途区分(事務所等・工場等・病院等など)と延べ面積から、適用されるBEIの基準を確認した
- 省エネ適判を申請する予定日が、基準の施行日(中規模は2026年4月1日)より前か後かを確認した
- 敷地の地域区分(1〜8地域)を確認した
- 計算方法(標準入力法・モデル建物法)と、計算を担当する設計者を決めた
- 外皮(壁・屋根・床・窓)の仕様を、BEIへの効き方を計算で比べて決めた
- 鉄骨・金物を併用する部分の熱橋と、断熱・気密の納まりを確認した
- 照明・空調・換気・給湯の設備仕様を、外皮と合わせて検討した
- 誘導基準・ZEBを目指すか、補助金を使うかを企画段階で決めた(補助金は原則として着工前の申請)
よくある質問
Q. 延べ300㎡未満の小規模な店舗・事務所にも省エネ基準はかかりますか。 A. かかります。2025年4月から原則すべての新築建築物が適合義務の対象で、非住宅はBEI 1.0以下が基準です。
Q. 非住宅でUA値を計算する必要はありますか。 A. 省エネ基準への適合の判定には使いません。非住宅の外皮はPAL*で評価し、PAL*は誘導基準(性能向上計画認定)で使われます。外皮の断熱は、空調エネルギーを下げてBEIを達成する手段として検討します。
Q. 木造なら省エネ基準に適合しやすいですか。 A. 構造材の熱伝導率が低く、熱橋を抑えやすい点は有利です。ただしBEIは設備の性能にも大きく左右されるため、構造だけで適合が決まるわけではありません。
まとめ
- 非住宅の省エネ基準はBEI(一次エネルギー消費量)で判定する。UA値の基準は住宅のもの
- 中規模(300㎡以上2,000㎡未満)は2026年4月から用途別BEI 0.75〜0.85、大規模は2024年4月から同じ水準
- PAL*は誘導基準のみ。断熱を強くする目的は空調エネルギーを減らしてBEIを下げること
- 木材の熱伝導率は0.12 W/(m・K)で、コンクリートの約13分の1、鋼の約460分の1。熱橋を抑えやすい
- 断熱だけでなく照明・空調などの設備と組み合わせ、計算で効き方を比べて仕様を決める
※ 本記事は一般的な制度の説明です。個別の計画は、最新の法令・告示と所管行政庁・登録省エネ判定機関にご確認ください。
出典・参考
- 国土交通省「省エネ基準の概要」(一次エネルギー消費量基準・外皮基準、非住宅のPAL*と基準値) https://www.mlit.go.jp/common/001500252.pdf
- 国土交通省「中規模非住宅建築物 適合義務の省エネ基準が引上げられます!」(2026年4月1日施行。国土交通省 住宅:資料ライブラリー https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html 、福井市の掲載版 https://www.city.fukui.lg.jp/kurasi/jutaku/kentikubutu/p072336_d/fil/kokkousyouchirashi.pdf )
- 国土交通省「大規模な非住宅建築物の省エネ基準が変わります」(2024年4月施行) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001519932.pdf
- 建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」第三章第三節 熱貫流率及び線熱貫流率(Ver.24、2025年4月) https://www.kenken.go.jp/becc/documents/house/3-3_250401_v24.pdf
- 環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」 https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html
- 平成13年国土交通省告示第1540号(枠組壁工法の技術的基準)|一般社団法人日本ツーバイフォー建築協会 https://www.2x4assoc.or.jp/technology/confirmation/1540-1541.html

