※ 画像はイメージです
はじめに|なぜ構造選択がコストを大きく左右するのか
非住宅建築を計画する際、最初に直面する大きな判断が「構造の選択」です。木造、RC造(鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)のどれを選ぶかによって、建設コストは数千万円単位で変わることも珍しくありません。
国土交通省の建築着工統計によると、2025年度の非住宅建築における木造の割合はわずか約6%にとどまっています。しかし、近年の鉄骨価格の高騰やウッドショック後の木材価格の安定化により、非住宅分野でも木造を選択する施主が増加傾向にあります。
本記事では、木造・RC造・S造の3構造の坪単価を一覧表で比較し、用途ごとのコスト目安をわかりやすくまとめました。構造選択の判断材料としてご活用ください。
この記事は3構造を横並びで比べるコスト総覧です。「木造とS造(鉄骨造)の二択でどちらを選ぶか」という判断に絞った比較は 木造とS造(鉄骨造)どっちが安い? を、10用途すべての坪単価一覧は 非住宅建築の坪単価一覧【2026年版】 をご覧ください。
構造別の坪単価比較
まずは、非住宅建築で最も計画数の多い事務所用途を基準に、構造別の坪単価を見てみましょう。いずれも本体工事費ベース(内装・設備・外構・設計監理費は別途)です。
| 構造 | 坪単価の目安(事務所) | 工期(100坪の場合) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 木造(2×4) | 65〜90万円/坪 | 3〜4ヶ月 | コスト・工期ともに有利 |
| S造(鉄骨造) | 80〜110万円/坪 | 4〜6ヶ月 | 大スパン対応が得意 |
| RC造(鉄筋コンクリート造) | 100〜130万円/坪 | 6〜8ヶ月 | 耐久性・遮音性に優れる |
坪単価は用途によって大きく動きます。内装が軽い倉庫は下がり、水回り・設備が重い宿泊施設や福祉施設は上がります。用途をまたいで比べるときは、次章の「用途別コスト比較」と、10用途を並べた 坪単価一覧 を基準にしてください。
傾向としては、木造はS造に対して約15〜25%、RC造に対して約30〜40%のコスト削減が見込めます。
例えば、200坪の事務所を建設する場合、構造による総額の差は以下のとおりです。
| 構造 | 坪単価 | 200坪の本体工事費 |
|---|---|---|
| 木造(2×4) | 65〜90万円 | 1億3,000万〜1億8,000万円 |
| S造 | 80〜110万円 | 1億6,000万〜2億2,000万円 |
| RC造 | 100〜130万円 | 2億〜2億6,000万円 |
木造とRC造の差額は約7,000万〜8,000万円。S造との差でも約3,000万〜4,000万円あり、いずれも経営判断に直結する金額です。この差額はそのまま、設備投資・運転資金・内装グレードに振り向けられます。
用途別コスト比較
建物の用途によっても、構造ごとのコストは異なります。以下に、代表的な4つの用途について坪単価の目安をまとめました。
倉庫
| 構造 | 坪単価の目安 |
|---|---|
| 木造(2×4) | 40〜65万円/坪 |
| S造 | 55〜80万円/坪 |
| RC造 | 80〜110万円/坪 |
倉庫は内装仕上げが最小限で済むため、全体的に坪単価が低くなります。木造は特にコストメリットが大きく、RC造と比較して40%前後の削減が可能です。ただし、フォークリフトが走る大開口・大スパンが必要な場合は架構コストが跳ね上がるため、木造で何メートルの大スパンが飛ばせるかを先に確認してください。規模別の総額は 木造倉庫の建設費 で解説しています。
事務所
| 構造 | 坪単価の目安 |
|---|---|
| 木造(2×4) | 65〜90万円/坪 |
| S造 | 80〜110万円/坪 |
| RC造 | 100〜130万円/坪 |
事務所は空調・電気設備のグレードが上がるため、倉庫よりも坪単価が高くなります。それでも木造なら、RC造より約30%のコスト優位性があります。階数・区画別の考え方は 木造事務所の建設費と坪単価 を参照してください。
介護施設(高齢者福祉施設)
| 構造 | 坪単価の目安 |
|---|---|
| 木造(2×4) | 75〜100万円/坪 |
| S造 | 90〜120万円/坪 |
| RC造 | 110〜140万円/坪 |
介護施設は防火規制やスプリンクラー等の設備要件が厳しく、全体的に坪単価が上がります。用途ごとに指定基準(面積要件)が決まっているため、必要延床が先に決まる点も特徴です。サービス種別ごとの建設費は 木造デイサービス・木造グループホーム・木造サ高住 で個別に解説しています。
店舗(飲食・物販)
| 用途 | 木造(2×4) | S造 | RC造 |
|---|---|---|---|
| ロードサイド店舗 | 55〜80万円/坪 | 70〜100万円/坪 | 100〜130万円/坪 |
| カフェ・物販店 | 70〜100万円/坪 | 90〜120万円/坪 | 110〜140万円/坪 |
同じ「店舗」でも、駐車場付きの郊外型ロードサイド店舗と、内装グレードが売上に直結するカフェ・物販店ではレンジが変わります。飲食店は厨房設備・グリストラップ・排気が加わるため、木造飲食店・レストランの建設費もあわせて確認してください。
木造が安い理由|3つのコスト削減要因
基礎工事の軽減
木造は他の構造に比べて建物の自重が軽いため、基礎工事が簡略化できます。RC造の基礎は杭工事を含めて建設費全体の15〜20%を占めることがありますが、木造では10〜12%程度に抑えられるケースが多くなります。地盤改良費用も含めると、基礎だけで数百万円の差が出ることがあります。
工期短縮による人件費削減
木造はプレカット加工された部材を現場で組み上げるため、躯体工事の期間が短縮されます。RC造と比較すると工期は約半分になることもあり、現場管理費や仮設費用の削減につながります。工期が1ヶ月短縮されるだけで、現場経費は200〜400万円程度の削減が見込めます。
資材コストの安定
2021〜2022年のウッドショック以降、木材価格は安定基調にあります。一方、鉄骨は国際市況の影響を受けやすく、2024年以降も高止まりが続いています。2025年時点で鉄骨の市場価格はトン当たり約12〜15万円と、コロナ前と比較して約30%高い水準で推移しています。
コストだけでない木造のメリット
断熱性能の高さ
木材の熱伝導率は鉄の約480分の1、コンクリートの約12分の1です。このため、木造建築は構造体自体が断熱材の役割を果たし、空調コストの削減につながります。事務所ビルの場合、年間の空調コストをS造比で約15〜20%削減できるという試算もあります。
CO2排出量の削減
木材は成長過程でCO2を吸収・固定しており、建築物として利用されている間もCO2を貯蔵し続けます。林野庁の資料によると、木造建築物は同規模のRC造と比較してCO2排出量を約40%削減できるとされています。脱炭素経営を掲げる企業にとって、木造建築は有力な選択肢です。具体的な削減量を施主提案用の数値で整理した木造建築のCO2削減効果を数値で解説もあわせてご覧ください。
減価償却の有利さ
法定耐用年数は木造事務所が24年、RC造事務所が50年です。耐用年数が短い分、年間の減価償却費が大きくなり、節税効果が高まります。初期投資が安い上に節税効果も大きいため、投資回収の観点からも木造は有利です。
それでも鉄骨・RC造を選ぶべきケース
コストだけで構造を決めると、後から設計が破綻することがあります。次のいずれかに当てはまる場合は、木造にこだわらずS造・RC造を検討してください。
| 条件 | 推奨構造 | 理由 |
|---|---|---|
| 15mを超える無柱スパンが要る | S造 | 木造トラス・集成材でも可能だが架構コストが急増し、コスト優位が消える |
| 4階建て以上を計画している | S造・RC造 | 木造中層は耐火要求が上がり、部材・防火被覆のコスト増が大きい |
| 重量機械の振動・重荷重がある | S造・RC造 | 剛性と床荷重の確保が構造の主目的になる |
| 敷地が防火地域で規模も大きい | 要個別判定 | 耐火建築物の要求次第でコスト構造が変わる。耐火基準の早見表で先に判定する |
| 遮音を最優先する用途(音楽・録音等) | RC造 | 質量則が効くため躯体重量そのものが性能になる |
逆に言えば、3階建て以下・スパン15m以内・一般的な床荷重という条件に収まる非住宅であれば、木造が不利になる場面はほとんどありません。日本の非住宅の大半はこの範囲に入ります。
よくある質問(FAQ)
Q. 坪単価にはどこまで含まれていますか。 A. 本記事の坪単価は本体工事費ベースです。内装造作・什器・特殊設備・外構・設計監理費・各種申請費用は含みません。総事業費は本体工事費の1.2〜1.4倍程度になるのが一般的です。
Q. 木造は鉄骨より維持費が高くつきませんか。 A. 外壁・屋根の更新周期は構造よりも仕上げ材で決まるため、木造だから高いということはありません。防蟻処理の更新(5〜10年ごと)は木造固有ですが、鉄骨も防錆塗装の更新が必要です。詳細は 木造非住宅は何年もつ? を参照してください。
Q. 鉄骨価格が下がれば逆転しますか。 A. 鉄骨は国際市況に連動するため短期の変動幅が大きく、木造との差が縮む局面はあり得ます。ただし木造の優位は資材費だけでなく、基礎の軽量化・工期短縮・減価償却の短さから来ているため、資材価格だけで逆転する構図にはなりにくいのが実情です。
Q. 補助金を使えば構造の差は埋まりますか。 A. 木造化に対する補助(掛増し工事費・調査設計費への補助)は木造側にのみ適用されるため、差はさらに開く方向に働きます。実在する制度は 非住宅木造に使える補助金・助成金まとめ で整理しています。
まとめ
非住宅建築におけるコスト比較をまとめると、木造はS造と比較して15〜25%、RC造と比較して30〜40%のコスト削減が見込めます。さらに、工期短縮、断熱性能、CO2削減、減価償却の有利さなど、コスト以外のメリットも多くあります。
もちろん、大スパンが必要な場合や高層建築では鉄骨やRC造が適しているケースもあります。しかし、3階建て以下の倉庫・事務所・介護施設・店舗といった非住宅建築であれば、木造は十分に有力な選択肢です。
なお、介護施設・店舗などで構造選択の前提となる耐火・準耐火の要否は用途と規模で変わります。判定の早見表は非住宅木造の耐火基準を完全ガイドを確認してください。自社の用途・規模での概算建設費は非住宅木造 建設費シミュレーター解説で試算できます。
「非住宅=鉄骨かRC」という固定観念を見直し、木造の可能性を検討してみてはいかがでしょうか。
