非住宅木造の耐火基準を完全ガイド — 用途×規模別の早見表
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はじめに — 非住宅木造で最初に確認すべきは耐火基準
非住宅の木造建築を計画する際、最初に確認すべきは「その建物に求められる耐火性能」です。用途と規模の組み合わせによって、耐火建築物・準耐火建築物・その他の建築物のいずれかに該当するかが決まり、これが設計の大前提となります。
「木造では耐火基準をクリアできない」と思われがちですが、2018年の建築基準法改正により木造で対応できる範囲は大幅に広がりました。本記事では、非住宅木造に必要な耐火基準を用途×規模の早見表で整理し、木造での対応方法を解説します。
耐火建築物・準耐火建築物・その他の違い
まず、建築基準法における耐火性能の区分を整理しましょう。
| 区分 | 要求される性能 | 火災後の状態 | 木造での対応 |
|---|---|---|---|
| 耐火建築物 | 主要構造部が耐火構造(1〜3時間) | 構造体が残存する | 可能(1時間耐火まで実用化) |
| 準耐火建築物(イ-1) | 主要構造部が1時間準耐火 | 一定時間倒壊しない | 容易に対応可能 |
| 準耐火建築物(イ-2) | 主要構造部が45分準耐火 | 一定時間倒壊しない | 標準的な対応で可能 |
| その他の建築物 | 特段の耐火要求なし | — | 制約なし |
木造で特に重要な「準耐火建築物」
非住宅木造の多くは「準耐火建築物」として建てることになります。2018年の法改正で準耐火建築物として建てられる範囲が拡大され、3階建て・延べ面積3,000m²以下の建築物が準耐火で対応可能になりました。
これは工務店にとって大きなチャンスです。一般的な事務所、店舗、福祉施設のほとんどがこの範囲に収まるためです。
用途×規模別の耐火基準早見表
以下の早見表は、防火地域・準防火地域以外の一般地域における基準です(防火・準防火地域については後述)。
特殊建築物(別表第一)に該当する用途
| 用途 | 階数/面積 | 要求される耐火性能 |
|---|---|---|
| 店舗・飲食店 | 3階以上に設置 | 耐火建築物 |
| 2階部分の面積500m²以上 | 準耐火建築物以上 | |
| 上記以外 | その他でも可 | |
| 事務所 | 特殊建築物に非該当 | 下記「一般建築物」参照 |
| 倉庫 | 3階以上に設置 | 耐火建築物 |
| 200m²以上(1階) | 準耐火建築物以上 | |
| 1,500m²以上 | 耐火建築物 | |
| 福祉施設(入所系) | 3階以上に設置 | 耐火建築物 |
| 2階部分の面積300m²以上 | 準耐火建築物以上 | |
| 上記以外 | その他でも可 | |
| 保育所・幼稚園 | 3階以上に設置 | 耐火建築物 |
| 2階部分の面積300m²以上 | 準耐火建築物以上 | |
| 上記以外 | その他でも可 |
一般建築物(事務所など)
事務所は建築基準法の別表第一の特殊建築物に該当しないため、耐火基準は緩やかです。
| 条件 | 要求される耐火性能 |
|---|---|
| 4階建て以上 | 耐火建築物 |
| 3階建て・延べ面積1,500m²超 | 耐火建築物 |
| 3階建て・延べ面積1,500m²以下 | 準耐火建築物以上 |
| 2階建て以下 | その他でも可(一定規模以上は準耐火) |
延べ面積3,000m²超の大規模建築物
用途にかかわらず、延べ面積が3,000m²を超える建築物は耐火建築物とする必要があります。ただし、3,000m²以内ごとに防火壁で区画する場合はこの限りではありません。
2018年建築基準法改正でどう変わったか
2018年6月に公布された建築基準法の改正(2019年6月施行)は、木造建築にとって大きな転換点となりました。
主な変更点
1. 準耐火建築物の範囲拡大
改正前は、一定規模以上の建築物は耐火建築物とする必要がありましたが、改正後は高度な準耐火構造(75分準耐火など)を採用することで、準耐火建築物として建てられる範囲が広がりました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 木造3階建ての可能範囲 | 限定的 | 3,000m²以下で準耐火可 |
| 防火壁による区画緩和 | 限定的 | 防火区画で柔軟に対応可 |
| 燃えしろ設計の適用範囲 | 狭い | 拡大 |
2. 「燃え止まり」という新概念
木造の主要構造部が一定時間火災に耐え、その後「燃え止まる」ことを実証できれば、耐火構造として認められるようになりました。これにより、木材の構造材をあらわしで見せるデザインと耐火性能の両立が可能になっています。
3. 防火区画の合理化
従来は1,500m²ごとの面積区画が必要でしたが、スプリンクラーの設置により区画面積を倍増できるなど、柔軟な対応が可能になりました。
木造で耐火・準耐火を実現する方法
メンブレン型(石膏ボード被覆)
最も一般的な方法が、木造の構造材を石膏ボードで被覆するメンブレン型の耐火・準耐火構造です。
| 耐火性能 | 石膏ボードの仕様例 | 追加コスト目安 |
|---|---|---|
| 45分準耐火 | 強化石膏ボード12.5mm×1枚 | 2〜3万円/坪 |
| 1時間準耐火 | 強化石膏ボード15mm×2枚 | 3〜5万円/坪 |
| 1時間耐火 | 強化石膏ボード21mm×2枚 + 追加措置 | 5〜8万円/坪 |
2×4工法はパネル構造のため、石膏ボードの施工が容易です。壁パネルの室内側に石膏ボードを張るだけで準耐火構造を実現でき、在来軸組工法よりも施工効率が高くなります。
45分準耐火であれば追加コストは坪あたり2〜3万円程度であり、S造やRC造との総コスト比較では木造が依然として有利です。
燃えしろ設計
構造材の断面を大きくすることで、火災時に表面が炭化層を形成し、内部の構造材を保護する方法です。木材の炭化速度は約0.6〜0.8mm/分であり、この速度を基に必要な「燃えしろ」寸法を算出します。
| 要求耐火時間 | 必要な燃えしろ寸法 | 適用例 |
|---|---|---|
| 30分 | 25mm | 小規模な建築物 |
| 45分 | 35mm | 準耐火建築物 |
| 60分 | 45mm | 1時間準耐火建築物 |
燃えしろ設計は木材をあらわしで見せたい場合に適していますが、2×4工法の基本部材は断面が小さいため、主に大断面集成材を使用する部分(梁など)で採用されます。壁・床はメンブレン型と組み合わせて使うのが一般的です。
防火地域・準防火地域での注意点
都市部で建築する場合、防火地域・準防火地域の規制が加わります。
防火地域
| 条件 | 要求される耐火性能 |
|---|---|
| 3階建て以上 | 耐火建築物 |
| 100m²超 | 耐火建築物 |
| 100m²以下・2階建て以下 | 準耐火建築物以上 |
防火地域では100m²を超えると耐火建築物が必要となるため、木造での対応ハードルは高くなります。ただし、1時間耐火の木造技術を用いれば対応は不可能ではありません。
準防火地域
| 条件 | 要求される耐火性能 |
|---|---|
| 4階建て以上 | 耐火建築物 |
| 1,500m²超 | 耐火建築物 |
| 500m²超〜1,500m²以下 | 準耐火建築物以上 |
| 500m²以下 | 外壁・軒裏の防火措置で対応可 |
準防火地域では500m²(約150坪)以下であれば準耐火建築物にする必要がなく、外壁と軒裏の防火措置のみで対応できます。工務店が手がけやすい小規模事務所や店舗の多くはこの範囲に収まるため、比較的対応しやすいと言えます。
実務上のポイント
防火地域・準防火地域は都市計画図で確認できます。計画初期の段階で敷地がどの地域に該当するかを必ず確認し、対応可能な構造・規模を見極めることが重要です。不明な場合は、所管の特定行政庁(市区町村の建築指導課)に事前相談することをお勧めします。
まとめ
非住宅木造建築の耐火基準は、用途・規模・地域(防火地域等)の3つの要素で決まります。2018年の建築基準法改正により、3階建て・3,000m²以下の建築物が準耐火で対応可能になったことで、木造で建てられる非住宅の範囲は大幅に広がりました。
準耐火建築物は石膏ボード被覆(メンブレン型)で比較的低コストに実現でき、追加費用は坪あたり2〜5万円程度です。工務店にとっては、耐火基準を正しく理解し、木造で対応可能な案件を的確に見極める力が、非住宅分野への参入における最重要スキルの一つとなるでしょう。
